セレンディピティの逃亡劇 [7]








「グンレンジャー、もう1度だ」

「えー、また!?」



あれからかなりの時間が経った。(まだロシアには着かない)あれほどまでに天気のよかった空は雷が響き、大粒の雨が降り、窓を打ちうけている。



「ねぇ、マルフォイ。そろそろトランプも飽きたし他のに…」



グレンジャーはだるそうに言った。だが、僕は飽きてはいない。

マグルのトランプを見るのは初めてで、その珍しさにつられてグレンジャーとゲームをした。だけど何故か(本当に何故か!)僕はグレンジャーに勝てない!何度も、何度もやったのにどうしても勝てない。……悔しい。この僕が負けるなんて。



「僕が勝つまで続ける」

「…あなた、やっぱり子供ね…」

「うるさい。さっさと配れよ」

「はいはい…」



いちいちうるさい奴だ。自分が勝ってばかりいるからいいだろうけど僕は違う。勝たなければ気がすまない。





…だが、突然、グレンジャーが声にならないような叫び声を上げて配っていたトランプを落とした。片手を自分の口に当て、もう片方の手で僕の後ろを震えながら指した。



「お、おい…?どうし…」

「あ…」

「グレンジャー…?」



何だか不安になって、おそるおそる後ろを振り返ってみた。



「…。何もないじゃないか。一体どうしたんだよ?」



だけどそんな不安は必要なかったようで、後ろには何もなく、雨が窓を打ち付けているだった。



「ち、違うの!い、い、今!今、居たのよ!」

「何が?」



グレンジャーはかなり混乱している。



「あれよ…あいつが。あいつがいたのよ!」

「あいつ?あいつって誰だ?」



それに今は飛行機の中だ。外に誰かいるわけがないじゃないか。ここはマグルの世界で箒で飛んでる奴なんているわけないし。しかも外は嵐だ。そんな事する馬鹿はいくら何でもいないだろう。



「3年生の時、見たあれよ。黒い服の…」



3年生…?黒い服…。

まさか!いくらなんでもそれは…。



「おい、まさかディメンターとか言うんじゃないだろうな?」



と言うとグレンジャーは体を震わして「そのまさか」と小さく呟いた。最悪だ。でも何でこんな所に?グレンジャーの見間違いじゃないのか?それしか考えられない。



「それは確かなのかい?ここはマグルだ。そんな奴らがいるわけ…」

「いたのよ!絶対にいた。私、見たもの。それも数人…」



しん、と沈黙になり背筋が寒くなった。グレンジャーが嘘をつくようには思えない。例え嘘なんてついたとしてもその理由がない。それにグレンジャーの様子からして、本気で見たような感じだ。信じたくはないけど…本当に、信じたくはないけど…その、もしかして……。



「まさか、あなたのお父様の仕業じゃない…わよね…?」



グレンジャーが言った。否定は出来ない。



「ま、まさか!なんで父上がわざわざディメンターを?それに僕が学校から居なくなったとしてもロシアに行くなんて思いもつかないだろうし、その前にマグルに行くなんて考えもしないよ。だ、だから…さっき君が見たのはただの幻覚。そう思う事にしよう…」



最後の方はグレンジャーに、というよりも自分自身に言い聞かせるように言った。信じたくはない。父上の仕業だなんて。バレるわけが……まさかハグリットが?いやいや、それはしないだろう。あいつは父上とは関係ないし。で、でも父上が校長に聞いて校長がハグリットに……?



やめだ。こんな事考えるのは止めよう。大丈夫。グレンジャーは幻覚を見ただけ。ただそれだけの事だ…。









「まもなく、ロシアに到着致します」



アナウンスが流れた。それと同時にもう1度後ろを振り返る。もちろん、そこにディメンターの姿はなく、ただ暗い空が見えるだけだった…。












※ホラーっぽいですね。いきなりシリアスには無理が…(汗)